弦譜堂ブログ、2回連続でスタッフSの登場です。
絶対音感と相対音感について、彼らしい興味深い記事を寄稿してくれました。
では早速、どうぞ。
採譜をするのに絶対音感は必要ですか?
弦譜堂スタッフのSです。
絶対音感を持ってますか?
世間話で、「楽譜を書いている」という身の上話をしたときに、こういう質問をよく受けます。
「子供のときにピアノを習っていたんですか?」
「絶対音感を持ってますか?」
そうすると私は、微妙な表情をしながら、曖昧な調子でこう答えます。
「あぁ、( )まあ、( )そう( )です」
カッコ内に、心の声を補足します。
「あぁ、(説明すると長くなるので、)
まあ(絶対音感はありますけど)、
そう(たいおんかんを使っているの)
です」
という歯切れの悪い答えになります。もう少しがんばって正確に答えてみます。
「私は、絶対音感がありますが、その後、相対音感を訓練したので、採譜の仕事ができています」
・・・伝わらない気がします。
音感に形があればいいのに
ともかく絶対音感は万能ではなく、相対音感が大事なことは、もっと広まっても良いと思います。
ですがセッションで出会うアマチュア演奏家や、レッスンの生徒から、耳コピが苦手だ、という流れで音感の話が上がります。大人だからもう身に付かない、という諦めのニュアンスと共にです。
「音感」は実態がよくわからないので、様々な迷信が語られ、伝わっているように見えます。
冒頭の質問の答えに戻ります。
「子供のときにピアノを習っていなくても」「大人になってから相対音感を伸ばすのはどうですか?」
答えを、お見せします。
突然の基準A
突然ですが、赤い点がひとつあります。
赤い点は、突然現れた基準Aから3.5cmであることが判明しました。なんとも突然です。
隣には緑の点が現れました。
またもや突然の基準A、からは6.0cmです。
赤い点と緑の点の間隔は、6.0cmマイナス3.5cmで2.5cmである事がわかりました。
別の方法でもう一度しらべます。
赤い点がひとつあります。
今回は赤い点ひとつでは何もできません。まあ赤いね、と感想でもいいましょう。
緑の点を待ちます。
緑の点が現れました。間隔は「こんぐらい」である事がわかりました。うれしい。
ものさしが登場したので、間隔は2.5cmであることがわかりました。
おわかりいただけますでしょうか。
赤い点と緑の点の位置は音程です。
始めの計測に出てきた、「突然の基準A」が絶対音感です。赤い点がひとつ現れたときに、いきなり基準Aが登場して、位置がわかります。それぞれの点は個別に計測できます。私の知る限りによると、基準Aは大人になってからは登場しないようです。
2番目の計測では、点が二つ出てこないと計測できません。2つの点の「間隔」の長さを測ります。これが相対音感です。
絶対音感と相対音感の違い
絶対音感の利点は、他の音との関係が無くても突然計測できる事だとわかりました。これは、アクロバットな転調を繰り返す曲や、モニター環境が悪いステージでの演奏、などで生かせそうです。音楽の瞬発力が必要とされる場面です。
採譜という作業は、じっくり取り組む持久力、深く解析する洞察力が大事です。何度も聞き返して、2つの点を見つける時間は用意されています。メモリの1mm以下、微妙な長さの違いを計測するには、相対音感の方が明らかに有利です。
音感とは、2点の間隔を知ること。
音感という謎に包まれた能力は、
「2つの点の間隔を見つける」
「ものさしで計る」
という作業に分解できると思います。
メロディの中の横の2点の探し方、コードに埋もれた縦の2点の見つめ方、そして間隔が「こんぐらい」(曖昧であることがすごくいい)である事がわかり、必要に応じてものさしで測る、ものさしの目盛りはいくつあってどんな仕組みなのか。
これは年齢、経験に関係なく身に付くと思います。私がレッスンしてきた大人の方が、まずは間隔を聞くことなんだ、間隔の長さの違いを見分けるんだ、というのを理解すると、(私が思っていた以上に)耳が伸びるのを見てきたからです。
2点について、ものさしの目盛りについて、いつか続編を書きたいと思います。
いかがでしたでしょうか。
- 絶対音感は万能ではなく、実践においては相対音感が大事
- 絶対音感が役立つのは、音楽の瞬発力が必要とされる場面(周囲の音とのインターバルに頼れない場面)
- 音と音の間隔の長さの違いを見分けることが優れた相対音感の習得への第一歩であること
なかなか語られてこなかったことに踏み込んだ記事でしたね。
「自分は音感がないから…」とあきらめていた方も、ぜひ音と音の間隔を聞き取って、楽器で再現してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
間違えながらでもいいんです。だんだん打率が上がって、そのうちほぼ百発百中になりますよ。
今回のブログはここまでです。
次回もお楽しみに。
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